あと施工アンカー工は、すでに固まったコンクリートに、あとから所定の位置へ孔(あな)をあけ、アンカーを施工する仕事です。アンカーは、設備や金物、補強のための部材などをコンクリートに固定するための部品です。
新築工事だけでなく、既存の建物の改修や耐震補強、設備機器の取付けなどで使われます。
この記事では、施工の流れ、コンクリートを打つ前に入れるアンカーとの違い、孔をあける前に鉄筋の位置を確かめる理由、金属系と接着系の違い、資格の位置づけを解説します。
あと施工アンカーとは|固まったコンクリートにあとから取り付ける
一般社団法人日本建設あと施工アンカー協会(JCAA)が示す標準的な施工手順では、墨出しで位置を示し、穿孔(孔をあけること)、孔の中の清掃を経て、アンカーを固定する流れになっています。
あと施工アンカーは、既存の建物の耐震補強にも使われています。国土交通省は2006年に告示を改正し、既存建築物の改修工事で使うあと施工アンカーの強度を指定できるようにしました。さらに2022年3月31日の告示改正で、鉄筋コンクリート造などの部材と、構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いるあと施工アンカーについても、強度を指定できるようになっています。
あと施工アンカーと、コンクリート打設前に入れるアンカーは何が違う?
アンカーには、コンクリートを打つ前に型枠の中に設置しておき、コンクリートと一緒に固めてしまう方法もあります。これに対し、あと施工アンカーは、コンクリートが固まった「あと」で孔をあけて施工する方法です。
あと施工アンカーが使われるのは、次のような場面です。
すでに建っている建物に、補強の部材や設備を新たに取り付けるとき
コンクリートを打つ段階では、取り付けるものの位置が決まっていなかったとき
改修工事で、取付けの位置や方法を変えるとき
打設前に入れるアンカーは、コンクリートの工事と同時に進みます。あと施工アンカーは、固まったコンクリートを相手にするため、中にある鉄筋や配管との関係を確かめながら作業する点が大きく違います。
金属系と接着系で作業はどう変わる?
あと施工アンカーは、大きく金属系と接着系に分かれます。JCAAの施工手順では、それぞれの中にも複数の方式があり、施工の要点が異なります。
系統 | 固定の仕組み | 方式の例 | 施工で重視すること |
|---|---|---|---|
金属系 | 孔に入れたアンカーを、打込みや締付けによって広げ、コンクリートに固定する | 芯棒打込み式、本体打込み式、コーンナット式など | 専用の打込み棒での打込み、指定されたトルク値までの締付け |
接着系 | 孔に入れた接着剤でアンカー筋を固着させる | 回転・打撃方式、打込み方式、注入方式 | 孔の中の清掃、接着剤の有効期限の確認、硬化するまでアンカー筋を動かさない |
同じ「アンカーを打つ」作業でも、金属系と接着系では確認するポイントが違います。どちらを主に扱っているかは、会社によって異なります。
仕事内容・作業の流れ
例として次のような工程があります。実際の順序や役割分担は、会社や現場によって異なります。
図面・施工計画・指示を確認し、アンカーの種類・サイズ・位置を把握する
墨出しで穿孔する位置を示す。すでに墨が出ている場合は位置を確認する
穿孔する位置の中に鉄筋や配管がないかを、探査機器などで確認する

アンカーのサイズに合ったドリルを選び、指定の深さに印をつけて、施工面に対して直角に穿孔する

集じん機やブロワー、専用ブラシなどで孔の中の切粉を取り除く

アンカーを施工する(金属系は打込み・締付け、接着系は接着剤とアンカー筋の挿入)

接着系は所定の硬化時間を待つ
必要に応じて試験や確認を行い、記録をとる
JCAAの施工手順では、ドリルの径や穿孔の深さはアンカーの製造者の指定によるとされています。位置は図面や管理者の指示に従って示します。
アンカーを打つ前に鉄筋の位置を確認するのはなぜ?
固まったコンクリートの中には、鉄筋や、配管・電気配線が入っていることがあります。孔をあける前に位置を確かめるのは、次のような事態を防ぐためです。
鉄筋を切ってしまい、コンクリートの部材としての働きに影響を与える
電気配線を傷つけ、感電や設備の故障につながる
配管を傷つけ、水漏れなどが起きる
では、穿孔の途中で鉄筋に当たったら、職人がその場で位置をずらしてよいのでしょうか。答えは「自分の判断で変えない」です。
JCAAの資格の説明では、上位の資格である第1種あと施工アンカー施工士でも、鉄筋との干渉などの施工上の障害があった場合、施工管理者に変更を提案することはできるものの、最終的な決定は設計者・監理者の判断によるとされています。アンカーは設計図書や施工計画に基づいて施工するもので、位置を現場の職人が決めるものではありません。
鉄筋に当たったときにどう報告し、誰の指示を待つのか。この手順を守ることが、あと施工アンカー工の仕事の基本になります。
未経験者が最初に担当する仕事
何から担当するかは会社によって異なりますが、未経験者は次のような作業から始めることがあります。
穿孔したあとの孔の中の吸じんやブラシがけを手伝う
施工するアンカーの種類・サイズ・数量を、指示書と照らし合わせて確認する
接着剤のカプセルなどの有効期限を確認するのを手伝う
ドリルにつけた深さの印が指定どおりかを一緒に確認する
作業場所の養生や、脚立・資材の準備をする
施工した位置や数量の写真・記録をとるのを手伝う
JCAAの施工手順でも、孔の中の清掃は切粉が残らないよう十分に行うことが示されています。清掃は、アンカーがきちんと固定されるかに関わる工程です。
資格・教育
あと施工アンカー工として入職するために、全員があらかじめ取得しなければならない1つの資格があるわけではありません。ただし、求人ごとに応募条件は異なり、担当する作業によっては法令で定められた教育の受講や資格が必要になります。
JCAAの資格は、協会が施工や管理の知識・技能を認定する資格です。国家資格や、法律で全員に義務づけられた免許ではありませんが、工事の仕様書などで資格者による施工が条件になることがあります。資格名だけでなく、施工・耐力試験・試験結果の評価のどこまでを担当できるかを確認してください。以下は、2026年4月1日以降の資格定義に基づく概要です。
資格(JCAA) | 技術水準の概要 |
|---|---|
第2種あと施工アンカー施工士 | M12以下(異形棒鋼はD13以下)のアンカーを、決められた施工計画に沿って施工する。耐力試験の支援作業は対象外。 |
特2種あと施工アンカー施工士 | M22以下(異形棒鋼はD22以下)のアンカーを、決められた施工計画に沿って施工する。耐力試験は、第1種施工士・試験を実施できる技術管理士・主任技士のいずれかの立会いの下で、機器の搬入・組立て・設置まで支援できるが、確認耐力の入力、耐力荷重の確認、報告書作成は対象外。 |
第1種あと施工アンカー施工士 | 施工・施工管理に加え、指示された確認荷重までの載荷と確認・結果の報告書作成を行う。耐力試験結果の評価は対象外。 |
あと施工アンカー技術管理士 | 施工計画・施工図の作成、工程・品質・安全管理などの施工管理と、耐力試験結果の評価を行う。試験の実施には、取得年度や併有資格等の条件がある(下記参照)。 |
あと施工アンカー主任技士 | 第1種施工士と技術管理士の両方の技術的能力を持つ(資格試験はない)。 |
母材の状態や鉄筋との干渉などに不具合がある場合、第1種施工士・技術管理士・主任技士でも、よりよい方法の提案と最終決定は別です。アンカーの選択や母材の判定を独自に決めず、設計者・監(管)理者の判断に従います。
技術管理士として耐力試験を実施する場合は、取得年度も確認します。2026年度以降の取得者は、技術管理士資格だけでは実施できず、特2種施工士または第1種施工士資格が必要です。2025年度までの取得者には2028年度までの猶予があり、2029年度以降も実施するには、特2種・第1種施工士資格の取得、または2026〜2028年度の所定の技能講習の受講が必要です。特2種施工士の併有者・技能講習受講者の試験範囲はM22/D22までで、第1種施工士の併有者にはサイズ制限がありません。
このほか、接着系注入方式カートリッジ型あと施工アンカー施工士、あと施工アンカー点検士があります。求人で資格が求められるときは、資格の種類、登録の有効期限、担当範囲を確認してください。受験・登録・更新の条件や最新の定義はJCAAの案内で確かめましょう。
法令に基づく教育は、担当する作業によって関わります。
教育・資格 | 区分 | 関係する場面の例 |
|---|---|---|
高所作業車の運転 | 特別教育/技能講習 | 作業床の高さ10m未満は特別教育、10m以上は技能講習 |
フルハーネス特別教育 | 特別教育 | 高さ2m以上で作業床の設置が困難な場所で、フルハーネス型墜落制止用器具を使用する作業(ロープ高所作業を除く) |
足場の上でアンカーを施工するだけの場合は、足場の組立て・解体・変更を行う人向けの特別教育とは区別されます。
安全面で確認したいこと
あと施工アンカーの作業では、ドリルで固いコンクリートに孔をあける作業が続きます。会社の安全対策を、次の点で確認しておくと安心です。
粉じん:穿孔や孔の中の清掃で出る粉じんへの対策と、集じん機・マスクの使い方。
振動:振動工具を扱う場合は、厚生労働省の「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針」の対象になる工具かどうかも含めて、作業時間の管理などを確認します。
騒音:厚生労働省の「騒音障害防止のためのガイドライン」(2023年改訂)に沿った対策や、耳栓などの保護具の支給。
高い場所:天井や壁の上部に施工するとき、脚立や高所作業車をどう使うか。
埋設物:コンクリートの中の配線・配管を傷つけないための探査の手順。
接着剤:接着系で使う材料の取扱い上の注意を、SDS(安全データシート)で確認しているか。
住み込みで確認すること
あと施工アンカーの仕事は、新築現場のほか、使われている建物の改修や耐震補強の現場で行われることもあります。建物を使いながら工事をする場合は、作業できる時間帯が指定されることがあります。住み込みで働く場合は、次の点を確認しておきましょう。
作業時間帯(夜間や休日の作業があるか、その場合の手当や振替)
現場が日によって変わる場合の移動手段と、工具・材料の運び方
寮から会社の倉庫や集合場所までの距離
契約形態(雇用契約か、請負・業務委託か)
入社時の移動費については住み込みの赴任交通費の記事、寮の条件は「住み込み求人の面接で寮について何を聞く?質問チェックリスト14項目」を参考にしてください。
求人票で確認するポイント
項目 | 見るところ | 確認したい理由 |
|---|---|---|
扱うアンカー | 金属系か接着系か、両方か | 覚える施工手順が変わる |
工事の種類 | 新築、改修、耐震補強、設備の取付けなど | 現場の環境や作業時間帯が変わる |
資格取得の支援 | JCAA資格の受験・更新の費用負担 | 担当できる範囲を広げる流れが分かる |
探査の方法 | 鉄筋探査を誰がどの機器で行うか | 穿孔前の確認手順が分かる |
作業時間帯 | 夜間・休日作業の有無 | 生活リズムと手当に関わる |
休工日の扱い | 作業が中止になった日の賃金 | 給与形態や就業規則・賃金規定等によって異なる |
契約形態 | 雇用契約か、請負・業務委託か | 社会保険や工具の負担が変わる |
面接で聞いておきたい質問
「主に扱っているのは金属系と接着系のどちらですか。どんな工事が中心ですか。」
「未経験で入った場合、最初はどんな作業から担当しますか。」
「穿孔中に鉄筋に当たった場合、現場ではどのように報告し、指示を受けますか。」
「JCAAの資格を取る場合、受験や更新の費用はどうなりますか。」
「夜間や休日の作業はありますか。その場合の勤務の扱いを教えてください。」
「集じん機やマスクなどの保護具は会社から支給されますか。」
よくある質問
Q. あと施工アンカー施工士の資格がないと働けませんか?
JCAAの資格が全員に一律に義務づけられた免許というわけではありません。ただし、「資格不問」で応募できることと、現場で一人で施工・耐力試験・評価まで担当できることは別です。求人の応募条件と工事の仕様を確認し、「入社直後の担当作業」「資格者の指示を受ける範囲」「資格取得後に担当する作業」を面接で聞いてください。
Q. 墨出し工とは何が違いますか?
墨出し工は、工事に必要な位置や高さの基準を示すことを専門にする仕事です。あと施工アンカー工は、示された位置を確認したうえで、穿孔からアンカーの固定までを担当します。墨出しの仕事は「墨出し工の仕事内容」で解説しています。
Q. はつり工とは何が違いますか?
はつり工は、コンクリートを削ったり壊したりして、形を整えたり開口をつくったりする仕事です。あと施工アンカー工は、決められた径と深さの孔をあけ、そこにアンカーを固定する仕事です。はつりの仕事は「はつり工の仕事内容」で解説しています。
まとめ
最初に確かめたいのは、その会社が金属系と接着系のどちらを、どんな工事で施工しているかです。
扱うアンカーと工事の種類が分かれば、次のことを比べられます。
最初に覚える施工手順
新築か改修かによる現場の環境と作業時間帯
目指せる資格と、取得を支える仕組み
穿孔前の確認や、鉄筋に当たったときの報告の手順
「アンカーを打つ仕事」と大まかに理解したまま入社すると、扱う材料や現場の時間帯が想像と違って戸惑うことがあります。
会社を選ぶときは、穿孔前の確認から記録までの手順に加え、未経験者が担当する範囲と、不具合があったときの報告先を聞いてください。説明だけで安全性を決めつけず、資格・教育・作業手順がどう用意されているかを具体的に確認しましょう。
まずは求人票の仕事内容に「耐震補強」「設備」「改修」のどの言葉があるかを見てみてください。
孔一つの位置と深さを正確に守る積み重ねが、建物や設備をしっかりと留めておく力になります。
出典・確認日:2026年11月2日
JCAA「資格について」:資格区分と技術水準
JCAA「資格定義の変更について」(2026年3月4日):4月1日からの変更
JCAA「技術管理士」:耐力試験の取得年度別条件

