送電線工事は、発電所でつくられた電気を送る特別高圧の送電線を、鉄塔と鉄塔の間に架け渡したり、既設の送電線を点検・保守したりする仕事です。地上での準備作業と、鉄塔の上での高所作業を、5〜10人程度の班で進めます。現場は郊外や山間部にもあり、大型工事では現場近くの宿舎に寝泊まりして通う場合もあります。この記事では、架線作業の流れ、似た職種との違い、未経験者が最初に担当する作業、必要な教育、宿舎で働く前に確認することを整理します。
送電線工事とはどんな仕事か
厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)では、発電所で発電された電気は、7,000ボルトを超える特別高圧送電線を通して送られると説明されています。特別高圧送電線には、鉄塔に架け渡す「架空送電線」と、地中に埋設する「地中送電線」があります。
送電線工事の仕事は、主に架空送電線の新設や改修に伴う電線の架線作業で、既設の送電線の点検や保守作業も含まれます。地中送電線の敷設や接続を担当する仕事もありますが、作業内容や現場は架空送電線と異なります。この記事では架空送電線の架線作業を中心に説明するため、地中送電線の仕事を検討している場合は、求人票でどちらの工事かを確認してください。
job tagでは、送電線の工事は電力会社が発注し、元請会社が受注したうえで、工種別(鉄塔工事、架線工事)に協力会社が作業を行う体制になっていると紹介されています。鉄塔を組み立てる工事と、電線を架け渡す工事は別の工種として扱われているということです。
架線作業の流れ
例として次のような工程があります。実際の順序や役割分担は、会社や現場によって異なります。
地上での準備:電線を架け渡す前に、配電線や道路に電線が接触しないよう防護用の足場を構築します。電線を送り出すための機械と電線ドラムを配置し、電線をつなぐための接続器を準備します。

碍子(がいし)・金具の組立て:電線を鉄塔に絶縁して取り付けるための碍子や金具を、地上で組み立てます。

資材・工具の吊り上げ:鉄塔の上へ資材や工具を吊り上げます。
金車・ワイヤーロープの配置:電線を通すための滑車(金車)や、電線を引くためのワイヤーロープを鉄塔に配置します。

延線:ワイヤーロープで電線を引き、鉄塔から鉄塔へ電線を延ばします。
緊線:電線の張り具合を調整し、鉄塔に固定します。

碍子・付属品の取付け:鉄塔の上で碍子や付属品を取り付けます。
job tagによると、作業は班長の指揮のもとで、地上での準備作業から始まり、鉄塔上の作業へと進みます。鉄塔の高さは10メートルほどから、さらに高いものまであります。
似た職種との違い
職種 | 主な作業 | 送電線工事との関係 |
|---|---|---|
送電線工事(本記事) | 送電線の架線、接続、点検・保守 | — |
鉄塔工事 | 送電用の鉄塔の組立て | job tagでは架線工事とは別の工種として整理されている |
鳶職 | 足場の組立て、鉄骨の建方など | 高所作業という点は共通するが、扱う対象が異なる |
電気工事士 | 建物・住宅などの配線や電気設備の工事 | 電気を扱う点は共通するが、工事の対象と規模が異なる |
「鉄塔に登る仕事」として、送電線工事と鉄塔工事、鳶職が同じものとして扱われることがありますが、鉄塔を組み立てる工事と、電線を架け渡す工事は別の作業です。求人票では「架線」「鉄塔」のどちらの工事かを確認してください。
未経験者が最初に担当する仕事
job tagでは、入職にあたって特に学歴や資格は必要とされず、入社後の数年間は実際の作業を通じた実務訓練が行われると紹介されています。大規模な会社では社内に技能訓練の設備がある場合もあります。
未経験者は、次のような地上作業から担当することが考えられます。
資材・工具の運搬と準備
防護用の足場の構築の補助
碍子・金具の組立ての補助
機械や電線ドラムの配置の補助
鉄塔上の作業員との合図、資材の吊り上げの補助
鉄塔上での作業をいつから担当するかは、会社の教育の進め方と本人の習熟によって異なります。job tagでは、6〜7年程度の経験を積んで作業班長になると、5〜10人程度の部下を任されるようになると紹介されています。社内で作業班長の資格認定制度を設けている会社もあります。
資格・教育
送電線工事の作業員として入職するために、全員があらかじめ取得しなければならない1つの資格があるわけではありません。ただし、求人ごとに応募条件は異なり、担当する作業によっては法令で定められた教育の受講や資格が必要になります。
電気工事士法は、一般用電気工作物等や一定の自家用電気工作物の電気工事を対象とする制度です。電力会社等の送電設備で行う送電線工事のすべてに、電気工事士免状が一律に必要というわけではありません。ただし、担当する設備や作業内容によって必要な資格・特別教育等は異なります。求人の応募条件と、入社後に担当する作業を確認してください。
資格・教育 | 内容 | 関係する場面 |
|---|---|---|
フルハーネス型墜落制止用器具の特別教育 | 高さ2m以上で作業床の設置が困難な場所で、フルハーネス型を使う作業(ロープ高所作業を除く) | 鉄塔上の作業がこの条件に当たる場合 |
電気取扱業務の特別教育 | 高圧または特別高圧の充電電路、またはその充電電路の支持物の敷設・点検・修理・操作等の業務が対象 | 担当業務がこの条件に当たる場合 |
巻上げ機の運転の特別教育 | 巻上げ機の運転の業務が対象 | 延線などで使う機械の種類によって |
玉掛け(つり上げ荷重1t以上) | 技能講習 | クレーン等で資材をつる場合 |
玉掛け(つり上げ荷重1t未満) | 特別教育 | 同上 |
移動式クレーンの運転(つり上げ荷重1t未満) | 特別教育 | 資材の運搬・吊り上げで運転する場合 |
移動式クレーンの運転(つり上げ荷重1t以上5t未満) | 小型移動式クレーン運転技能講習 | 同上 |
職長教育 | 新たに職長等の職務に就く人に対して、事業者が行う教育 | 班長など、作業員を指揮する立場になる場合 |
どの教育が必要になるかは、担当する作業によって異なります。入社後に会社で受講できるか、費用を誰が負担するかを確認してください。
安全面で気をつけること
墜落・転落:鉄塔上での作業が中心になります。高さ2m以上で墜落のおそれがある場合は、場所の状況に応じた墜落防止の措置がとられ、墜落制止用器具を使います。
落下物:鉄塔の上から工具や部品が落ちることを防ぐため、工具の落下防止や、下にいる作業員の立入り範囲の管理が行われます。
既設の電線への接近:改修工事や既設線の近くでの作業では、感電を防ぐための手順や措置がとられます。どのような手順で作業するかは、会社の教育で確認します。
天候:雷や強風は高所作業に影響します。作業を中止する基準を確認しておきましょう。
暑さ・寒さ:屋外の作業のため、法令上「熱中症を生ずるおそれのある作業」に該当する場合、事業者は症状を報告する体制を整え、作業からの離脱・身体の冷却・必要に応じた医師の診察等の手順を定めて周知することになっています。
1日の流れ
宿舎や事務所から現場へ移動する
朝礼、危険予知活動、班長からその日の作業と配置の説明
地上での準備作業、資材の吊り上げ
休憩
鉄塔上での作業、地上での補助
片付け、翌日の段取り、宿舎へ戻る
山間部の現場では、車両を降りてから作業場所まで歩いて移動する場合もあります。
住み込み・宿舎で確認すること
送電線工事は、住み込みや宿舎での生活と結びつきやすい仕事です。job tagでは、一つの工事が終わると次の工事現場に移るため作業場所は固定しておらず、大型工事で作業が長期にわたるときは、工事現場の近くに設営された宿舎に寝泊まりして出勤する場合も多いと紹介されています。ただし、すべての工事が宿舎生活になるわけではなく、自宅や会社の寮から通う働き方もあります。
応募前に、次の点を確認しておきましょう。
宿舎の形態
会社の寮か、現場ごとに用意される宿舎か、借上げのアパートや旅館か
個室か相部屋か
宿舎費は無料か、給与から差し引かれるか
食事と生活
食事が出るか、自炊か。食費の負担はどうなるか
洗濯や入浴の設備はどうなっているか
現場の近くに買い物できる場所があるか
現場の移動
一つの工事がどのくらいの期間続くか
次の現場へ移るときの移動手段と交通費の負担
入社時に寮へ入るまでの交通費の扱いは住み込みの赴任交通費で確認方法をまとめています
休みと天候
job tagでは、屋外作業が主のため、降雨などにより臨時休日となる場合があり、作業工程の都合で休日出勤することもあると紹介されています
休工日の賃金は、給与形態や就業規則・賃金規定等によって異なります
長期工事の間に帰省できるか、その交通費はどうなるか
求人票で確認するポイント
項目 | 見るところ | 確認したい理由 |
|---|---|---|
工事の種類 | 架空送電線の架線、地中送電線、点検・保守、鉄塔工事のどれか | 作業内容も現場の環境も異なるため |
会社の立場 | 元請か、協力会社か | 担当する工種と現場の範囲が変わるため |
現場の範囲 | 対応エリア、出張・長期滞在の有無 | 宿舎生活の期間に関わるため |
宿舎 | 形態、個室か、宿舎費、食事 | 毎月の手取りと生活の質に関わるため |
給与形態 | 月給、日給月給、日給など | 雨で休工した日の収入に関わるため |
教育 | 社内訓練、特別教育・技能講習の受講と費用負担 | 未経験から担当を広げられるかが分かるため |
契約形態 | 雇用契約か、請負・業務委託か | 社会保険や給与の扱いが変わるため |
面接で聞いておきたい質問
「担当するのは架線工事ですか。鉄塔工事や地中送電線の工事もありますか」
「入社後、地上作業から鉄塔上の作業に移るまで、どのように教育を進めていますか」
「現場の近くの宿舎に泊まる工事は、1年のうちどのくらいありますか。宿舎は個室ですか」
「宿舎費や食費は、給与から差し引かれますか」
「雨や強風で作業が中止になった日の給与は、どのように扱われますか」
「次の現場へ移るときの移動費や、帰省の交通費はどうなりますか」
「業務に必要な特別教育や技能講習は、会社で受講できますか」
判断するときのポイント
現場を移りながら宿舎で生活する働き方を、自分の生活に当てはめて考えられるか
地上作業から高所作業へ、段階的に教育を受けられる体制か
天候による休工を含めて、月の収入の見通しが立つか
よくある質問
Q. 高いところが苦手でも働けますか?
鉄塔上での作業が中心になる仕事のため、高所作業への適性は確認が必要です。入社後はまず地上作業から担当することが考えられますが、どの時期に鉄塔上の作業へ移るかは会社によって異なります。
Q. 電気工事士の資格は必要ですか?
電気工事士法は、一般用電気工作物等や一定の自家用電気工作物の電気工事を対象とする制度で、電力会社等の送電設備で行う送電線工事のすべてに、電気工事士免状が一律に必要というわけではありません。ただし、担当する設備や作業内容によって必要な資格・特別教育等は異なります。求人の応募条件と、入社後に担当する作業を確認してください。
Q. ずっと宿舎暮らしになりますか?
工事の規模や期間によって異なります。大型工事では現場近くの宿舎に泊まる場合がありますが、会社の寮や自宅から通う工事もあります。面接で宿舎生活の期間の目安を確認してください。
まとめ
応募前に確認したいのは、次の3点です。
担当する工事の種類(架線、鉄塔、地中送電線、点検・保守)
宿舎生活の形態と期間、宿舎費・食費の負担
雨や強風で休工になった日の給与の扱い
この3点が分かれば、どんな作業を、どこで、どんな生活リズムで続けていくのかを判断しやすくなります。
ここが曖昧なまま入社すると、宿舎で過ごす期間や天候による収入の変化が想定と違うことがあります。
判断の軸は、現場を移りながら班で働く生活を、自分が続けられるかです。仕事内容と同じくらい、宿舎での暮らし方を具体的に確かめておくことが大切です。
今日できるのは、気になる求人の待遇欄から、宿舎・寮・出張手当に関する記載を書き出すことです。
鉄塔の上から張られた一本の電線が、遠くの町の明かりにつながっています。宿舎の条件を一つ確かめることから、新しい働き方への準備を始めてみてください。

